開催概要

CT委員会は2020年6月8日、オンラインシンポジウム「Withコロナ、Postコロナでの街のあり方について」を開催した。新型コロナウイルス感染症の影響で、「街に賑わいを作ること」を街づくりの指標とすべきかに疑問の声が上がっている。本シンポジウムでは、CiP協議会 City&Tech 委員会 委員長の石戸奈々子をファシリテーターに、「今後、街の豊かさの指標はどう変わっていくのか」について意見を交わし、次回以降、働き方、暮らし方、スポーツやエンタメの楽しみ方などさまざまな側面から議論を深めていく。第一回の模様を紹介する。

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・日時:6月8日(月) 12:00-13:00
・登壇者 (五十音順)

生貝直人氏
東洋大学 経済学部総合政策学科 准教授
石戸奈々子
慶應義塾大学教授、City&Tech 委員会 委員長
佐倉統氏
理化学研究所・革新知能統合研究センター
澤邊芳明氏
株式会社ワントゥーテン 代表取締役社長
関治氏
ソフトバンク株式会社 デジタルトランスフォーメーション本部 第四ビジネスエンジニアリング統括部 第2部 部長
田中敦典氏
東急不動産株式会社 都市事業ユニット都市事業本部ビル事業部 グループリーダー
中川裕志氏
理化学研究所・革新知能統合研究センター
中村伊知哉
iU学長、CiP協議会 理事長
花野修平氏
東急不動産株式会社 都市事業ユニット都市事業本部ビル運営事業部 課長補佐

「可変性」と「自由度」が新たな街づくりには大切

登壇者のピッチプレゼンの後は、「コロナ後の街づくり」をテーマに活発な議論が交わされた。ファシリテーターは、慶應義塾大学教授、City&Tech 委員会 委員長の石戸が務めた。

▲石戸奈々子 慶應義塾大学教授、City&Tech 委員会 委員長

石戸
今回のテーマである、「コロナの前後で街はどう変わるのか」について、みなさんのご意見をうかがいます。先のプレゼンで中川さんは、街の機能が「表面的には変わらない」と発言されました。

中川氏
「表面的に変わらない」とは、現代社会は最適化が進んでいるので、いきなり変えるとあちこちでひずみが出てしまうという意味です。例えば、子どもの教育において学校生活はすごく大切ですが、集まらなくてもスキルを身につけられる機会は十分にあることがわかりました。大学の授業でも、オンラインで学ぶ海外の授業は非常にレベルが高い。本当に人間対人間で集まって学ばねばならないことは何なのか精査していけば、最小限の人数、最小限の移動で最大限の効率を上げる機会を見つけるチャンスにつながります。

会社組織も、本当に人と人が合わなければいけない場合と、テレワークなどでうまく行く場合と2種類あると思います。よく「セールスは対面でのコミュニケーションが重要」と言われますが、本当にそうでしょうか。非常に複雑な製品が多くなっている現在、いかに製品知識をきちんと伝えられるかが重要で、そうなると「人の移動」より「情報の移動」が重要となる場合も少なくありません。そうした変化を街がどうサポートしていけるのか、街を情報空間に広げてしまうことができるのかということがポイントになると考えています。

生貝氏
田中さんや中村さんも触れていた文化芸術面では、公の基盤をどうニューノーマルに対応させていくかが重要です。政府知財本部が進めている、全国の美術館や博物館のコンテンツをデジタルで一括視聴できる「ジャパンサーチ」はその一例で、リアルの社会インフラに人が集わなくても、あるいは集う人数を最小限に抑えても、その機能を多くの人が使えるようにしていく取り組みが進むでしょう。

教育面では、新しく竹芝の街に作られる学校では、デジタルとリアルをハイブリッドに組み合わせた教育スタイルが求められますし、新しく作られる図書館では、普段読めない本や買えない本も含め、リアルの図書館で紙の本に触らずにデジタルで読める方法を考えていいと思います。欧米では本のデジタル貸し出しが進んでいますが、これまで日本では著作権法上の問題があり困難でした。しかし、5月に決定された知財計画では、図書館が保有する資料へのアクセスを容易にするため、権利制限規定をデジタル化・ネットワーク化に対応させることが明記されました。近いうちに図書館のあり方も変わっていくと思います。

石戸
リアルに集まらなくても、情報的な都市空間に教育的な機能を持たせられる、ということですね。それをいかに進めていくべきか。佐倉さんや中村さんからは、情報化が進むことでむしろ都市への集中が進んだ側面もあるという指摘がありましたが、その理由を探るとヒントが得られそうです。

佐倉氏
19世紀末から20世紀初頭の都市化は、鉄道網と電信網という、いわばリアルと情報の両面での革新的な発明が背景にありました。その後も情報化が加速していったのですが、一方、惰性で進んできた側面もあります。ハンコ文化やセールスの対面重視などは、不要になった時に切り捨てて良かったのに、リアルで集まることに慣れすぎてしまっていたため残ってしまいました。その歪みが、コロナ禍で一気に露呈したと感じています。

大学の教授会も今はオンラインですが、みな「これからもオンラインで」と言います。民間企業でも同じでしょう。誰もが嫌々参加してきた会議がいかに不要なものだったのか、世界規模でわかってしまった。そういう意味では、仕分けのいいきっかけになりましたし、ここできちんと仕分けしておかないと、さらに惰性が続いて良くない方向に進んでしまうと思います。

中村
30年前、日本も世界も高度情報社会を目指していました。その過程で、テクノロジーの進化によって人々が集まらなくて済むようになったのに、多くの人がより濃密なコミュニケーションを求めて集中するようになってしまいました。この、ジワジワと集中が進んでいく基調がコロナ禍で分散の方向に反転するのか、それとも人間は保守的だからこの基調のまま進んでいくのか。さらに、テレワークは今後、どの程度まで進んでいくのか。仮に半数がテレワークで働くようになれば、オフィスは「密」から「疎」の状態になります。今後オフィス需要がどうなるのかも気になります。

澤邊氏
弊社は約150人の社員が3月からリモートワークを続けていますが、7割以上は「良かった」と答えています。「大変だった」と答えたのは管理職くらいで、特にエンジニアやデザイナーは、「家で十分」「これからもリモートワークを続けたい」という意見が大多数でした。今後はリモートワークを大幅に増やしていくことになると思います。

そうなると都市に集まる利点は何か。2000年代からSOHOなど分散化傾向はあったのに結局、集中してしまったのは、人が集まるほうが効率的なうえ、人と会うメリットも大きかったからだと思います。集まっての共同開発や高価な機材の共同利用にはメリットがありますが、集まる必要がない仕事は分散の方向に進んでいくでしょう。

そうなった時、人々が集まる都市に意味を持たせるとするならば、私が提案したいのは「休み」ですね、休日を一律土日にするのではなく分散させることで、都市にエンターテイメントの機能を持たせる。うまく暇を分散化できれば、都市を遊園地のように遊べる空間にしながら「密」を防いでいくこともできるのではないかと考えています。

石戸
関さんからコロナ後の街の機能は可変的であることが重要、と具体的な提案がなされています。

関氏
Postコロナ、アフターコロナでリモートや在宅を絡めたワークスタイルが増加すると、どこの会社も、物理的なオフィスをどうするか考えなければなりません。多くの企業が考えているのは、遊休資産化したが契約期間が残っているオフィスを外部に開放して有効活用することです。

テレワークにも全く問題がないわけではなく、小さな子どものいる家庭では仕事に集中しづらく、1LDKで夫婦共働きの家庭などではリモート会議の声も気になります。自宅の近くに他社の開放された遊休オフィスがあれば一定の需要はあると思います。それをさらに進めていけば、昼はオフィス、夜は人が集まり食べる場所とすることも可能でしょう。生貝さんからも新しい図書館や学校の話がありましたが、目的やニーズに応じて建物を可変構造にしたり、多目的にしたりすることが考えられると思います。

石戸
CiPは、テックアンドポップの特区を東京港区のベイサイドにある竹芝地区に建設することを目指しています。これから生まれる竹芝のような新しい街は、どのような点に留意し、どのような機能を持つと良いのでしょうか。みなさんの立場からの提案をいただきたいと思います。

澤邊氏
コロナ禍で考えさせられたのは、「プランB」を用意しておくことの重要性です。今までの街にはプランBがありません。災害も多い国なのに逃げ込める空間を考えていなかったのです。竹芝では、デジタルツインの考え方を取り入れてコピーとしてのオンライン空間を整備し、リアルで会えなくてもデジタルで会えれば構わないという街づくりを進めたいですね。

そうするとリアルの価値は何だろう、ということになりますが、私は、エンタメやレジャー施設、竹芝であれば劇団四季や芝離宮・浜離宮などと協力して、密を避けながら楽しめる街にシフトしていくことや、確実にリアル空間を必要とする、ものづくりや大型機材が必要な人々が集まれる街にしていくことで価値を残せると思います。むしろ、そういう機材が揃うことをアピールして、ベンチャーやスタートアップが集まれる実験都市になれば、リアルの意味は凄く大きいと思います。

石戸
生貝さんは、Googleのカナダ・トロントでの取り組みなど、世界中でスマートシティの取り組みが中断している状況をご存知だと思います。それらを踏まえて何かアドバイスはありますか。

生貝氏
基本的には、最初に申し上げた「公益のためのデータ活用」というようなことを、新しい街づくりにどう取り込んでいくかということだと思います。今後おそらく、社会全体の動きが可視化されていく方向に進む中で、全体的なデータに基づいて、広域的に調整していくのが公の役割です。国としては、社会全体の考え方をどう分散的な方向に導いていくか、そのための基盤づくりを、データを使いながらどう考えていくのかが重要だと思います。

佐倉氏
コロナ禍を契機に、街には仕事だけではなく、生活、娯楽、懇親、教育、育児などいろいろな機能があることを再確認しました。それらの機能を「どこか一箇所に集約してしまったほうが便利だろう」というのが、これまでの街の考え方だったと思います。それが今回のコロナ禍を契機に、ICTの進展も手伝って、少し緩くする方向に向かうのかな、という気がしました。もちろん、完全にバラバラにはならないだろうけれど、緩くなればデザインの自由度も高まるでしょう。そこをどうデザインしていくのかは、住む人、使う人が考えていかなければいけないと、改めて感じました。

石戸
複合的な機能を持つからこそ変わることが難しいのかも知れませんが、その中でいかに自由度を持たせていくかは重要な論点の一つですね。中川さん、コミュニティという視点でのご意見を聞かせてください。

中川氏
竹芝の話を聞いていつも思うのは、実は外部との境界点、インタフェースが非常に重要であることです。人が集まる都市と都市との間のインタフェースをどう作るか、都市の内部にいろいろあるコミュニティ間のインタフェースをどう工夫していくか。そこを踏まえて、今後、都市とコミュニティの位置付け、関係性を考えていきたいと思います。

石戸
初めに、物理的な都市空間と情報的な都市空間の分離について話されましたが、むしろそれをハイブリッドに組み合わせることで、自由度、余白を作っていくのがいいということですか。

中川氏
そうですね。分離するのが実情だとしてもそのままにするのではなく、もう一度それらを組み合わせるやり方も考えてみる時期だと思います。

石戸
その組み合わせ方に次の街づくりのヒントがあると思いました。その意味で、ソフトバンクが竹芝に参加することに多くの期待が集まっています。

関氏
竹芝にはテナントとしても入りますが、街づくりに携わるのは実質、初めてで抽象的なことしか申し上げられません。しかし、この大きな挑戦の中で、私たちが根源的なところで目指す理念どおり、人々が幸せになれる街、楽しくワクワクする街、住みたくなる、働きたくなる、来たくなる街を創っていけるのか。そのためには何をもって、どういう地区があればいいのかといったことは、みなさんと議論しながら取り組んでいきたいと考えています。

石戸
まさに安心・安全は大前提ですが、その追究で楽しさやワクワク感が失われないように技術で補完していければいいと思います。

田中氏
新しいオフィスの在り方については、いろいろな考え方があります。一つは、ソーシャルディスタンスをしっかり確保した余裕のあるオフィスづくりで、これならオフィス需要のさらなる広がりが期待できます。もう一つは、現在のオフィススペースから個人作業の場所を削って、会議などコミュニケーションの場所に特化したオフィスづくりで、こうなればオフィス自体の需要は減っていくでしょう。

さらには、都心のオフィスビル拠点と、郊外や地方で働ける拠点もしくはコワーキングスペースをセットにしたオフィスも検討しています。例えば、同じ定期券で混雑する上り電車ではなく空いた下り電車に乗って、通勤時間やストレスを軽減しながら同じ仕事ができるシステムも考えています。竹芝の場合、「船で島に行って仕事をすればいいのでは」なんて話も出ていますね。

石戸
今回のオンラインシンポジウムは総論で、2回目以降に働き方やエンタメなど個別のテーマで掘り下げていきます。引き続き議論を続けていくとして、本日のオンラインシンポジウムはこれで終了いたします。どうもありがとうございました。

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