「第2回 テクノロジーのショーケース City & Tech シンポジウム」レポート
開催概要
先端技術をまるごと集積させた都市を世界に先駆けて作るべく、発足したCity&Tech(CT)委員会。昨年末のシンポジウムに引き続き、集約した技術の実装を行う他地域での取り組みについて発表・議論するイベント「第2回 テクノロジーのショーケース City & Tech シンポジウム」を2/18(火)に開催いたしました。
・日時:2月18日(火) 17:30-19:15
・開催会場:シュビア赤坂 シーブルー
・内容:
1. オープンイノベーションで挑む「モビリティ革命」
中川剛志さま 東日本旅客鉄道株式会社 技術イノベーション推進本部 ITストラテジー部門 次長
2. アフターデジタル時代のショッピングセンターPARCO
林直孝さま 株式会社パルコ 執行役 グループデジタル推進室担当、株式会社パルコデジタルマーケティング 取締役
オープンイノベーションで挑む「モビリティ革命」
東日本旅客鉄道株式会社 中川剛志さま
1章 JR東日本研究開発センターについて
1日あたり約1770万⼈のお客さまにご利用いただいているJR東日本。国際事業、鉄道以外にも様々な事業展開(コンビニ、オフィス等)をしている。埼玉にできた研究開発センターでは究極の安全をベースにエネルギー、ICT活用等について取り組んでいる。
JR東日本を取りまく環境として人口減少、働き方改革等により、人が移動しなくなってきている。そこで、2016年に技術部門として、モビリティ革命を実現するビジョンを策定。IoT、ビッグデータ、AI等で、モビリティ革命を実現していくことを宣言。
その後オープンイノベーションによる連携を強化、モビリティ変革コンソーシアムについても積極的に進めている。
2章 研究開発の取り組みについて
労力がかかるメンテナンスに対してCBM:コンディションベースドメンテナンスという考え方を導入。従来のTBM:タイムベースドメンテナンス(状態に関わらず月一のメンテ等)から状態を基準にした保全に。線路設備モニタリング等、車両に設置されたモニタリング情報→故障の未然防止に役⽴てるべく実導入を進めている。
またJR東日本 ALFA X(次世代新幹線)の試験を開始、営業速度360km/hの安定的な走行を目指して開発している。
JR東日本アプリをリリースしている。MaaSとして、お客様との最初の接点としてスマホが大事であるという考えの元開発を進めている。
ビッグデータを利用した運行状況の見える化。車両1つ1つの重さから、混雑状況を確認している。
3章 モビリティ変革コンソーシアムについて
オープンイノベーションを進めるための場所ということで、実証実験、ハッカソン等を多くの企業と連携・実施。160の会員と共に4つのワーキングを中心に進めている。
新しい企業連携の枠組みとして、コンソーシアムを採用。これはドイツ鉄道の取り組みをベンチマークに、イノベーションを生むためにJR東日本が今までやっていなかったやり方(アライアンス型の連携、アセット提供型の連携)で進めることに。JR東日本はデータ、アセット(駅・車両など)を中心に、大学、企業、研究所の知見を出し合ってもらい、活動を進めている。
コンソーシアムの流れとして、アイデアの創出・アジャイル開発を進め、行い、社会への実装を目指す。
Door to Door 推進WGについて
検索、宿泊場所から始まる移動に対して、ストレスや無駄がない移動を目指している。
80の団体が参画し、さらに4,5つのサブワーキングに分けている。
決済系に関して、アプリ:Ringo Passを作成。Suica を認証IDの鍵として、バイクシェア、タクシー決済に利用できるなど、駅からの交通に関してシームレスな体験を提示している。
次にBRTによるバス自動運転による実証実験について。
バスの専用道を利用し、その自動運転化することを目指している。磁気マーカー、⾞内モニタリングシステム等の技術を持ち寄り、実証実験を行った。自動運転システムとして、与えられたルートを元にいかにそこを走らせるか、カメラ・GPS等の情報から、アクセル、ブレーキ、ハンドルを自動操作。今回の自動運転の特徴としては、位置情報として磁気マーカーを2mおきに貼り付け、バスの下についているセンサで読み取る形になっていた。また、無線を使用した信号制御として、バスの交互通行に関する実証実験も合わせて行った。
時速60km運転が可能、バスを駅に正確に停める技術精度の高さ、GPS等位置補正が聞かない場所で磁気マーカーが有効、といった結果が得られた。
Smart City WGについて
Well-being as a Serviceをコンセプトとし、様々な人が幸せを感じられる街にするべく活動を行なっている。各10社程度のサブワーキングが8,9つある中、具体的な事例を紹介。
駅からはじまるスポーツの街
スポーツを観戦するが、お金を落としてくれない。JR側からすると、駅は混雑。これらの問題に対して、ZOZOマリンスタジアムと一緒に実証実験を行なった。
6つのスポーツを応援する取り組み「京葉線プラス」と連携、デジタルサイネージ等を使用して、情報で人を動すことを目指した。その人にあった情報提供をするためのおもてなしエンジンをNTTコムウェアより提供、実証を行なった。また、フェーズ2として混雑情報を加えると行動変容があることが分かった。
ロボット活用WGについて
サービス分野の設計、メンテナンス分析の活用、工場のスマート化への活用を目指している。ロボットの活用を考える企業体として、JREロボティクスステーションLLPがある。
案内AIみんなで育てようプロジェクト
ロボット技術を用いた駅構内に案内ロボット・サイネージを各駅に配置。実際にお客さまに利用してもらうことで、AIを育てるという実証実験。
また、東京都と協力した東京ロボットコレクションについて、品川駅にロボットを集結させ、多くの方々に利用してもらい、どこが良いのか等検証した。
ポツンとロボットをおいても気づかないことから、「駅に⾏けば案内ロボットがいる」という⾵⼟を創ることで、より多くの人に利用して頂けると考えている。
実証実験を通じて分かったこと。
AIの技術的観点として音声認識が大きな最初の関門。人間は音を聞き分けられるが、ロボットは全てを同じように聞き取ってしまう点や、実際に駅に導入する上でのNGワード(人種差別等)対策を考えないといけない。また、データベースのメンテナンスについても思ったよりも手間がかかってしまうことがわかった。
自律移動ロボットについて。
東日本は駅というアセットがあるので、リアルタイムの混雑具合をセンサからロボットに伝える仕組みで、安全にロボットを動かせるか、埼玉新都心で実証実験を実施した。
これらを3月にオープンする高輪ゲートウェイ駅に案内ロボットたちを試行導入する予定。
また、ロボットのメンテナンス分野の活用として、ドローンによる河床解析を行なっている。ドローンにソナーを付けて、リアルタイムで情報を送り、大雨が降った後の川の底を確認する作業に活用する。
コンソーシアムについて現在も会員募集している。
質疑応答
○ 企業の実証実験の調整、フィールドの調整が難しそう。オープンイノベーションをJRがやる、ということに社内の反発等はなかったのか?
中川:反発というより最初は様子見という空気であったが、バスの自動運転等、メディアに出ると関心が高まっていった。
○ ロボットと電車に乗ることについて。
中川:ロボットの問題というより大きさの制限や、危険物の持ち込み等で問題になることはあると思う。
○ 高輪ゲートウェイについて、MaaSやロボットの実装がされるという話について。
中川:4つの案内ロボット、2つの移動ロボットを試行導入するが、実証できるか最後の試験になる。その他実証実験を行うロボットもある。また、この駅にセンサーが設置されており、人の流動のリアルタイム確認、音響を確認して放送レベルを上げる等のシステムも試験導入している。
アフターデジタル時代のショッピングセンターPARCO
株式会社パルコ 林直孝さま
アフターデジタルとは
OMO(Online Merges with Offline):オンラインとオフラインがマージされる。
Before Digitalではリアルとデジタルが別々に存在するというような認識であったが、
After Digitalでは、デジタルの中にリアルが内包されている、インターネットが常に接続されている中で、リアルな世界があるということである。
Before Digitalでは、製品単位の価値提供(買ってもらう瞬間)が企業競争の重要なポイントであったが、After Digitalでは、買い物の前後を含めた体験全体での価値提供が可能になっている。企業競争の焦点が製品→体験に。
ショッピングセンターに置き換えると、
Before Digitalが来店時の商品と接客での価値提供に対して、来店前のコミュニケーション、来店後も継続的にリピートしてくれるいい関係を作れる。デジタルの接点を来店前、来店中、来店後に継続してつくることができるようになった。
パルコの場合、従来の接客力に加え、デジタルテクノロジーを活用し、After Digital時代のショッピング体験に活用するための取り組みを進めている。
After Digitalという言葉ができる前にも、2013年ごろから「24時間PARCO=いつでもどこでも」というAfter Digitalに対応したコンセプトを掲げていた。店舗というリアルな接客プラットフォームに加え、インターネット上にサービスアプリケーションを実装、さらにそれらをつなげるオムニチャネル対応として24時間店頭とWEBで接客を行い、点線でなく実線で続いている接客のプラットフォームを形成した。
2015年に全国のPARCOでサービス提供を開始したスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」について
それぞれのテナントが提供するブログから始め、そこから商品をwebで購入できる環境を整え、After Digitalに対応した24時間の接客を行えるようにした。
来店前~来店中~来店後の以下の行動に対して、コインというポイントを提示した。
- CLIP: ブログ記事閲覧、お気に入り登録
- Checkin: 来店時チェックイン
- Walking: walking coin:店舗での歩行をカウント
- Conversion: 接客・購入
- Star rating: 来店後にサービスの評価
このデータの可視化によってお客様の行動について、館内買い回りを促進できればショップの維持率が高められることに気付かされた。After Digitalの時代、ショップや商品サービスとの素敵な出会いをいかに増やせるか、テクノロジーによって実現したい。
ショッピングセンターでは欲しいものが決まっていない非計画購買が多い。
宝探しのようにワクワクしながらショッピングを楽しめ、偶然出会ったものに納得・喜びを感じるセレンディピティな体験を提供する。
これをテクノロジーでどう解決していくのか。
Web 1.0~Web 3.0と比較したとき、パルコではオンラインーオフライン全ての接点をデジタルのデータで捉え、AIで接客の質を高めていきたいと考えている。
ロボット接客等を含めた過去実験的にやってきたことの経験値を、実際に2019年11月開業の渋谷PARCOに実装している。
そうしてオープンした渋谷PARCOのコンセプトは世界へ発信する唯一無二の次世代型商業施設。以前から支持を頂いていた要素:ファッション、アート&カルチャー、エンターテイメントの3つにフード、テクノロジーを新たに加えた5つの軸を融合させた。
テクノロジーについて
PARCO CUBEについて。ファッション x テクノロジーとして小型のオムニチャネル型ショップが集合。ECとリアルをつなげる売場ゾーンとして、店頭のデジタルサイネージ等と連携して、従来よりも在庫管理のスペース・手間を抑え、店舗接客にフォーカスできるように。
その際の仕掛けとして大型サイネージを利用し、画面に映る商品のQRをお客様自身のスマートフォンで読み込んで、スムーズにオンラインストアでチェック、購入を促している。
1Fでは実証実験型 AI ショールーム「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」を展開。店頭とオンラインで顧客接点を作っている。また、海外のお客に対応した多言語対応 AI音声認識によるインフォメーション端末の設置や、ロボットによるインフォメーションも始めていく。
そして、PARCOでは初めてとなる電子レシートサービスも提供している。
スマートフォンを使ったキャッシュレスが進んでいるのに紙のレシートが渡される現状がある中、パルコではショップで決済されたレシートデータをアプリで閲覧可能にする電子レシートサービスを導入。
従来は把握できていなかったお客様が何を購入されたのか、そのデータを取得することで、お客様に対するレコメンドや、テナントに役立つ売り場・接客でのフィードバックを行えるようにしたい。商品単位で、来店前〜来店中〜来店後に適切にレコメンドできるように今後システム開発を進めていく予定。
最後にXRを活用した空間演出にチャレンジしている。
吹き抜けにAR作品として、スマホから見ることができる3Dアート作品を常設している。5Gの時代、お客様が携帯するデバイスがスマートフォンからスマートグラスになると予測されている中、空間に今見えていないものも体験してもらえる。それを利用し、リアル店舗の体験がもっと拡張できるのではないか。
意識していることとして、Amazon社のCEOジェフ・ベゾス氏が「10年後の変化を予測することより10年後も変わらないことの方が大事。Eコマースの分野では10年後も消費者が安い・配送が早いことを求めることは変わらない。そこを理解しながらビジネスを成長させるべき。」と語っていたように、ショッピングセンターについて10年後にも、お客様はたくさんのショップの中から、納得がいく商品やサービスとの出会いを求める。また、心地の良い接客も求め、これらを突き詰めていかないといけないと考えている。
アマゾンではオンラインを起点にした上でオフラインの店舗(Amazon go)へチャネルを拡張していったように、パルコはオフラインを起点にオンラインへ拡張、PaaS =PARCO as a Service(デジタルSCプラットフォーム)として進化していきたいと考えている。
5Gの普及を期待しながら、様々なテクノロジーを利用して、データによる顧客理解に努め、パーソナライズされた商品単位の出会いを大事にしていく。
質疑応答
○ 海外においても同じような状況なのか、ベンチマークしているものはあるのか。
林:XRを使った3Dアート作品を常時で展示されているショッピングセンターはあまりないはず。中国等、海外では2018年に視察したアリババが運営するショッピングセンターなどは、テクノロジー活用が進んでいた。お客様の滞留、ビル内の環境数値等を常にデータ化、大型のモニターで表示されているのを見て感銘を受けたことがある。
○ 都市全体のエリアマネジメント的な視点で、点→線→面にするには何に期待するのか、何が欲しいのか?
林:渋谷を例に言うと、街全体で音楽やアート等を組み合わせたXRのイベントが増えている。スマホをかざすと昔の渋谷の駅前が表示されるといったXR、5G、IoTが組み合わさったものが今後展開されていくと予想している。そういった中、コンテンツ勝負になっていくのでは。渋谷では渋谷の街の特徴に合わせたコンテンツの実装がされていくはず。
そういう部分に可能性を感じている。
○ リアルな場でとれる情報は、どんなものが有益だと感じるか。
林:お客様の理解を深める上では、電子レシートのいつどこでどの方がおいくらで何を買われたのか、という情報は有益だと感じる。オンラインショッピングではそれがわかるのに、リアルのショッピングセンターでは現状難しい。現在お客様の不満として、多数ある「欲しい商品が見つからなかった」という状態を放置してしまっている。そこをデジタルの力も使いマッチングすれば、買い物の満足を高められると思っている。その可能性は、購買データを理解すること、在庫のデータをショッピングセンターが持つことで広がる。
RFIDで商品管理されているところは、ロボットが検知、データ化していくということを実験し、可能になりつつある。そのようなことを踏まえた上で、様々なデータでお客様を理解でき始めたのはいい兆しだと思っている。
林:(データを使い生活を豊かにするいい事例として)コーヒーの購買体験について。通常の接客では一杯のコーヒーを店頭で買うのに、様々なオーダーの会話がいる。それに対して、いつも通っている顔見知りの店員さんの接客では、個人を認識して察し、始めに交わすコミュニケーションが「今日はバレンタインですね」という言葉とともに、いつものコーヒーとチョコを貰うという対応をしてもらったことがある。このセレンディピティな体験を、個人を認識するといった自動化できる部分を、テクノロジーを利用して実現し、心が和む接客を人の力で提供し続けることが必要。